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東京地方裁判所 平成7年(ワ)24486号 判決 1996年12月13日

原告

兵銀ファクター株式会社

右代表者代表清算人

坂田博司

右訴訟代理人弁護士

上石利男

河合安喜

被告

右代表者法務大臣

松浦功

右指定代理人

鈴木一博

外三名

被告

東京都

右代表者知事

青島幸男

右指定代理人

鈴木秀治

外一名

主文

一  当庁平成三年(ケ)第二八八六号不動産競売事件について、当庁が作成した配当表のうち、被告国(麻布税務署)に対する配当額三〇八七万六六二三円とあるのを四三六万五九八九円に、被告東京都(主税局)に対する配当額三七一万四八〇八円とあるのを零円に、原告に対する配当額一二六九万九四八二円とあるのを四二九二万四九二四円にそれぞれ変更する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の七分の五と被告国に生じた費用の七分の六を被告国の負担とし、原告に生じた費用の六分の一と被告東京都に生じた費用を被告東京都の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

当庁平成三年(ケ)第二八八六号不動産競売事件について、当庁が作成した配当表のうち、被告国(麻布税務署所管)に対する配当額金三〇八七万六六二三円とある部分及び被告東京都(主税局所管)に対する配当額金三七一万四八〇八円とある部分を取り消し、原告に対する配当額(手続費用を除く)金一二六九万九四八二円とある部分を金四七二九万〇九一三円に変更する。

第二  事案の概要

本件は、土地及び地上の建物が一括売却された代金の配当表について、右土地につき更地の状態のときに根抵当権の設定を受け、後に同地上に建築された建物についても根抵当権(共同根抵当権)の設定を受けた原告が、同土地は法定地上権の負担を負わないのに、これを負うことを前提として配当表を作成した誤りがあるとして、原告及び被告らへの配当額について異議を述べ、その変更を求めた事案である。

一  前提事実(括弧内に証拠を掲げたものを除いては当事者間に争いがない。)

1  原告は、昭和六三年六月三日、田久地建設株式会社との間で、同社所有の別紙物件目録1記載の土地(本件土地)につき、株式会社都市コンサルタントの原告に対する金銭消費貸借、保証取引、保証委託取引による債務、手形債務、小切手債務、昭和六一年一月二一日付けファクタリング取引契約による債務を担保するため、極度額一億二〇〇〇万円の根抵当権を設定する旨合意し、同日その旨の登記を受けた。

2  原告は、平成二年一月一〇日、田久地建設との間で、同社が平成元年七月三日ころ本件土地上に建築した別紙物件目録記載2の建物(本件建物。本件土地と併せて、以下「本件不動産」という。)につき、前記債務を担保するため、本件土地と共同して、極度額一億二〇〇〇万円の根抵当権を設定すると合意し、同月二四日その旨の登記を受けた。

3  当庁は、本件不動産の不動産競売手続(同庁平成三年(ケ)第二八八六号事件)において、本件土地が本件建物のために法定地上権の負担を負うことを前提として、本件土地の最低売却価額を一二二五万円(更地価額四〇八四万円(一平方メートル当り四〇万円。面積113.45平方メートル。建付減価として一〇パーセント控除。万円未満四捨五入。以下、同様)から法定地上権の価額二八五九万円(右土地価額の七〇パーセント)を控除した金額)とし、本件建物の最低売却価額を四二六五万円(本件建物の価額(二一一六万円)に法定地上権の価額(二八五九万円)を加算し、本件建物(共同住宅。いわゆるワンルームマンションとして使用)の八戸中三戸部分の長期賃貸借による減価(減価率三〇パーセントで五六〇万円)分及び残り五戸中三戸部分の占有による減価(一五〇万円)分を控除して算出)とし、本件不動産についての合計の最低売却価額を五四九〇万円と定めて一括売却に付し、本件不動産は五八五八万円で売却された(甲五、六、七、乙一)。

4  被告東京都(渋谷都税事務所。後に東京都主税局に移管)は、平成二年度から平成三年度分までの都税(法定納期限平成二年五月一日から平成三年五月三一日)債権四七万一七〇〇円について、札幌市(手稲区役所)は、平成三年度分の市税(法定納期限平成二年八月一日から平成三年七月二四日)債権五四四万二五〇〇円について、被告国(麻布税務署)は、平成三年度から平成四年度分までの国税(法定納期限平成四年四月三〇日から平成四年一一月二日)債権二〇四八万三〇二三円について、被告東京都(港都税事務所。後に東京都主税局に移管)は、昭和六三年度から平成二年度分までの都税(法定納期限昭和六三年七月三一日から平成元年一〇月三一日)債権一億一七四七万一六四七円及び平成二年度から平成五年度分までの都税(法定納期限平成二年五月一日から平成五年五月三一日)債権二四八五万四九四九円について、右記載の順に交付要求した(甲一の一)。

5  当庁は右競売事件につき別紙内容の配当表を作成し、原告は、平成七年一二月六日(右競売事件の配当期日)、被告両名に対する前記第一記載の配当部分を取り消し、これを全て原告の配当額に加えるべき旨の異議を申し出た。

二  争点

1  原告の主張

原告が本件土地に根抵当権の設定を受けた当時、本件土地は更地であり、建物が建築される予定もなく、法定地上権は成立しない。

民法三八八条により法定地上権の成立が認められるか否かは、「建物保護という社会経済上の要請」と「抵当権設定者の意思と予測」の二つの要素により判断されるが、本件不動産は一括競売に付され、建物の存続のために法定の土地用益権を発生させる必要性はなく、また、原告は、本件土地を更地として担保評価して融資を行い、本件建物に共同根抵当権を設定した際には追加融資等を行っておらず、法定地上権の成立を予期していない。

2  被告らの主張

(一) 土地及び建物が同時に共同抵当の目的にされた場合、その一方又は双方が競売に付され、土地及び建物の所有権が異別の者に帰属するに至った場合、法定地上権が成立するが、その理由は、土地建物に同一順位の共同抵当が設定されていれば、抵当権者は土地建物の全体価値を同一順位で把握しており、対抗問題を生じる余地がなく、地上建物の保護による競売手続の安定及び国家経済上の利益の要請に鑑みて、土地用益権を肯定すべきであり、また、土地及び建物の両方に担保を設定した抵当権設定者及び抵当権者の合理的意思としても、建物については法定地上権を潜在的に伴うものとして、土地については法定地上権の成立を受忍すべき潜在的負担を伴うものとして担保価値を把握しているというにある(法定地上権が成立しないことを前提とすると、建物についての担保価値は廃材の評価額とならざるを得ず、抵当権設定契約当事者の合理的意思に反する。)。

更地に抵当権(根抵当権も同じ。)が設定された後、地上に築造された建物に右土地の抵当権者が土地の抵当権と同順位の共同抵当を設定した場合、右と同様に、抵当権者は土地と建物の交換価値を同一順位で把握しており、対抗問題を生じる余地がなく、建物の存立を図るという社会経済上の要請に従い、同建物のため法定地上権の成立を認めるべきあり、本件土地建物においても双方に権利者を同じくする同一順位の根抵当権が設定されているから、競売の結果、土地と建物が異別の者に競落された場合には法定地上権が成立するものと解すべきである。

(二) 評価人は、土地又は建物の一方のみについて売却許可決定がされる余地があり、一括売却に付されるか否かが不明のまま個別の財産評価を行わざるを得ず、成立する可能性のある法定地上権の価値を考慮して評価する外ないのであり、後に一括売却がされ、法定地上権が成立し得なくなったとしても、その評価は適法であり、これに基づく配当も違法とは言えない。むしろ、抵当権者は、土地及び建物を共同根抵当の目的とし、その全体の価値を把握したことにより将来の法定地上権の発生を予期しており、配当についても法定地上権の成立を前提とした土地及び建物の価額を決定することが抵当権者の意思に合致するものであり、偶々一括競売となったことの一事をもって、配当手続においては法定地上権が成立しないことを前提として配当をすると、取引の安全を著しく害する。

本件不動産についても双方に権利者を同じくする同一順位の根抵当権が設定され、対抗関係を生じる余地はなく、競売の結果、土地と建物が異別の者に競落された場合には法定地上権が成立する以上、法定地上権が成立することを前提とした評価額に基づく本件配当表は適正である。

(三) 民法三八八条は、建物について土地利用権を認めないことによる建物所有者や建物抵当権者の不利益に止まらず、社会経済的不利益をも考慮して土地利用権を認めているのであり、抵当権者の期待のみによってその成否を左右すべきではなく、また、土地及びその地上建物に共同抵当権が設定されている場合、第三者が将来の法定地上権の成立を前提として物件の評価を行い、建物のみに抵当権を設定することが予想されるが、このような場合に、租税滞納の有無、その法定納期限等の時期、滞納租税の納付状況、又は競売手続に対する租税債権者の交付要求の有無といった不明確かつ不確定な要素によって物権である法定地上権の成否が左右されるとすると取引の安全を著しく害する。法定地上権の成否は、民法三八八条及び民法一七七条の法意に照らして一義的に決せられるものであり、租税債権の有無により成否が左右されるべきものではない。

土地抵当権者は、地上建物に共同抵当権を設定しようとする際に、国税等の滞納の有無及び状況等を納税証明書により確認し、又は設定者の資産状況等を考慮して、共同抵当権を設定しないとの選択をすることも可能であったのであるから、法定地上権の成立を認め、右地上権価額の部分についての配当順位が租税債権に劣後するに至ったとしても、右の不利益は不測のものとは言えない。

3  被告国の主張(仮定的主張)

仮に、本件土地が本件建物のための法定地上権の負担を負わないことを前提として評価するとしても、本件建物の評価額は一七二八万円であり、本件不動産の最低売却価額合計五四九〇万円についての割合は、本件土地0.6852459(小数点以下第八位を四捨五入。以下同じ。)、本件建物0.3147541となり、売却価額五八五八万円から手続費用一六六万五五八七円を差し引いた残額五六九一万四四一三円に右の割合を乗じた額(本件土地三九〇〇万〇三六八円(一円未満の端数を四捨五入。以下同じ。)、本件建物一七九一万四〇四五円)をもって配当の前提とすべきで、国税に優先する租税債権七四万六五〇〇円(被告東京都。渋谷都税事務所分)及び八八七万七〇〇〇円(札幌市手稲区役所)を差し引いた八二九万〇五四五円は、被告国に配当されるべきである。

第三  争点に対する判断

一 土地について抵当権(根抵当権について同じ。)が設定された後、右土地上に建物が建築され、同土地が競売に付された場合、法定地上権は成立せず、また、抵当権の設定された土地上に後に建築された建物にも抵当権が設定され、建物の競売により、土地と建物が所有者を異にするに至った場合、建物のために土地に法定地上権が成立するものの、右地上権は、土地について抵当権が実行されたときは、土地の競落人に対抗することができない。

二 本件においては、前記のとおり、本件土地に根抵当権が設定され、後に新築された本件建物について、同一の債務を担保するために共同根抵当権が設定され、土地及び建物の双方について競売手続が開始された。共同抵当制度は、同一債務を担保するため複数の不動産に数個の抵当権が設定された場合に後順位根抵当権者の利害にも配慮し、抵当不動産相互の負担を公平に分配するための制度であり、本件におけるように、時を異にして共同担保の関係にした場合、共同担保とした時点(本件では、建物根抵当権の設定時)において法定地上権の成否又は対抗関係を判断すべきものではなく、各根抵当権の設定の時点を基準に法定地上権の成否及びその対抗の関係を判断すべきである。

本件において、本件土地及び本件建物の双方について競売が開始されており、前者についての根抵当権の実行に着目すれば、地上建物のための法定地上権は成立し得ず、後者についての根抵当権の実行に着目すれば、本件建物のための法定地上権が成立し得るものの、右地上権は、本件土地の競落人に対抗し得ず、土地の競落に伴って覆滅されるべきものに過ぎず、土地及び建物についての最低売却価額の決定並びにこれらを一括売却した場合の売却代金の案分に際して、右地上権価額を参酌すべきではない。

被告らは、土地の抵当権と同一順位の抵当権が建物に共同抵当権として設定されており、建物の売却に伴い発生する法定地上権について対抗関係を生じる余地はないと主張するが、法定地上権に関して対抗関係を生じるのは、建物と土地がそれぞれ競売に付され、競売の結果、土地と建物が別々の者に競落された場合の建物競落人と土地競落人との間についてであって、建物抵当権者と土地抵当権者の間に問題となるわけではなく(建物のみが競売に付され、建物競落後、土地について更地の状態で設定した抵当権が実行されないまま消滅した場合には、対抗問題を生じる余地はなく、土地のみが競売に付された場合には、前記のとおり、更地のときに設定された土地抵当権があれば地上権は成立しない。)、被告の主張は失当である。

三  被告らは、土地抵当権者が建物にも抵当権を設定している以上、競売をした場合に建物が存続するものとして、すなわち法定地上権が成立することを前提に評価していると見るのが合理的であり、そうであれば法定地上権を認めた方が建物保護に資すると主張する。

更地に抵当権の設定を受けた者が後に地上に建築された建物についても共同抵当権を設定する例は少なくないが、右のように、土地の抵当権者が建物にも抵当権を設定するのは、一括売却がされることを前提に建物をも担保として把握する意思、又は、地上に建物が建築されることによる土地の減価(本件においても、最低売却価額の決定に当たり建付減価が考慮されている)を補い、若しくは、建物の存在、さらには建物についての賃貸借関係の設定等が競売手続の進行の事実上の障害となって、土地の担保価値が事実上低下することを防ぐ意思に基づくのが通常で、土地又は建物のいずれからであれ、債権について最大限の満足を得ることを意図したものに外ならず、被告らの主張するように、法定地上権価額を把握するというのが抵当権者の合理的意思であるとは到底考えられない(法定地上権の価値を把握するため、自ら担保の対象とした土地の価額を削り取ることを甘受するのが土地の抵当権者の意思であるとは到底考え難く、被告らの主張は本末を転倒するものである。)。

四  土地及びその地上建物に同一順位の抵当権が設定され、かつ、地上建物について法定地上権が成立しない場合、抵当権者は、通常、一括競売を申し立て、執行裁判所としても一括売却の決定をすべきである(民法三八九条参照)。右の場合、一括売却によって建物の保護は図られるのであり、法定地上権の成立を認める解釈によって建物の保護が実現されるものでもない。

本件においても、土地競落人に対抗できる法定地上権が成立する余地がない以上、一括売却をすることを前提として最低売却価額を決定すべきであり、法定地上権価額を土地価額から控除し、これを建物価額に加算して最低売却価額を決定すべき理由は何もない。

五 最低売却価額は、配当異議訴訟においてこれを争うことはできない。しかしながら、土地とその地上建物が一括売却された場合、土地又は建物の個々の最低売却価額は配当額の決定に際して意味をもつに過ぎず、売却許可決定は、土地建物の最低売却価額の総額を基準として判断される。土地及びその地上建物に同一順位の共同抵当権が設定されている場合、抵当権者は、当該建物のために当該土地について法定地上権が成立するとの前提に誤りがあり、ひいては土地又は建物の個々の最低売却価額の決定に誤りがあるときであっても、土地又は建物についての各別の最低売却価額には関心がなく、右最低売却価額の決定に対して異議を申し立てることは期待し得ない。右抵当権者は、売却許可決定に対する執行抗告の方法によって自己の利益を守ることもできないのであり、右の誤りによって被る不利益について不当利得返還請求によってのみ救済を求めるべきものとするのも妥当でなく、不動産の最低売却価額の総額を変更しない限り、執行手続上特段の不都合を生じるものでもないことをも考慮すると、右抵当権者に対し、右の不利益について配当異議の訴えにより救済を求めることを許容すべきである(この場合、民事執行法八六条二項前段の適用はなく、執行裁判所が作成した配当表中の売却代金の割り付けを変更することができると解すべきである。)。

六  法定地上権の成立についての判断の外、本件配当表の作成の前提に誤りはなく、これにより評価すれば、前提事実記載のとおり、本件土地の価額は四〇八四万円(万円未満四捨五入。以下、特に断らない限り、同様)、本件建物の価額は一三三一万円(本件建物物自体の価額二一一六万円から本件建物の八戸中三戸が滞納処分による差押え前に賃貸されていること及び残り五部屋のうち三部屋が差押えに遅れて占有されていることを考慮して減価した価額)である。

本件不動産の売却代金(五八五八万円)及び手続費用(一六六万五五八七円)について、本件土地及び本件建物の右価額の割合により案分すると、本件土地についての売却代金は四四一八万一一一二円、手続費用は一二五万六一八八円となり、本件建物についての売却代金は一四三九万八八八八円、手続費用は四〇万九三九九円となる。これによれば、本件土地についての第一順位の根抵当権者である原告に対しては本件土地の右売却代金から手続費用を控除した四二九二万四九二四円を、本件建物につき原告に優先する国税債権を有する被告国に対し、右建物の売却代金から右手続費用並びに右国税に優先する租税債権七四万六五〇〇円(被告東京都。渋谷都税事務所分)及び八八七万七〇〇〇円(札幌市手稲区役所)を差し引いた残金四三六万五九八九円を配当すべきである。

七  よって、原告の請求は、本件配当表のうち、被告東京都(港都税事務所分)に対する配当額三七一万四八〇八円とある部分の取消し、及び被告国(麻布税務署)に対する配当額三〇八七万六六二三円とある部分の四三六万五九八九円への変更(二六五一万〇六三四円の取消し)、原告に対する配当額(一二六九万九四八二円)を、これに三〇二二万五四四二円を加算した四二九二万四九二四円への変更をそれぞれ求める限度で理由があるから、これを認容することとし、その余の部分は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条一項ただし書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官江見弘武 裁判官柴﨑哲夫 裁判官森倫洋)

別紙<省略>

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